研究方針・研究分野・研究テーマ    2012.3.25 一部更新


研究方針  研究分野  研究テーマ  おわりに


 長尾研究室の基本的な研究方針,研究分野,研究テーマについて説明します.

研究方針

 知能情報処理で “人のため” の “人にやさしい” 人工システムを創る

  • 長尾研究室では,人間の知能を手本とし,計算機・機械によって高度機械知能を実現することを将来目的として,知能情報処理に関わる広範囲な学際領域の分野に関する研究を行っています.人の“知能”,“感情”,“思考”,“意志”とは何か?に対して理学的興味をもちつつ,人間と同等,あるいは情報解析能力において人間を超える知能をどのようにしたら実現することができるか,そして,知能情報処理をどのように応用すれば人間の生活を豊かにし,人を幸福にすることができるか,を常に考えながら研究を進めています.

  • 人と機械の知能に関連する分野は非常に広く,このため,長尾研究室の研究テーマも,人の高度な画像認識能力を機械・計算機で実現したり,音声情報の処理を行う画像・音声情報処理,人の視覚特性をコンピュータビジョンに応用する視覚情報処理,自律して環境を認識し,学習・行動することができる人工物を作る分散人工知能,人工脳の構築を目指す神経回路網・並列分散処理,より強力な最適化・探索法を模索する進化計算法・最適化法,人の集団・複雑系としての社会を工学的に探求する金融工学・進化経済学,ロボットの制御と創発を実現するロボティクス・創発システム,人と機械の間のインタフェースを改善するマンマシンインタフェース,工学技術で人の命を延ばし,助ける医工連携研究,人間の感性を工学で扱うことを可能にする感性情報処理まで多岐に渡っています.ですが,高度な知能を実現して人を助けるという基本方針は統一されたものです.長尾研究室の学生は入学から卒業までに,これらの広い領域に精通した知識を身につけることになります.

  • 最近は特に医工連携研究に力を入れています.情報工学と医学を融合した新しい学問領域の創生と,情報工学的技術に基づく従来にはない画期的な診断・医療・予防の支援を目指しています.長尾教授は横浜国立大学・未来情報通信医療社会基盤センター(通称:MICT(Medical ICT)センター)の医療情報通信工学分野長を務めており,NICT(情報通信研究機構),横浜市立大学医学部・医学研究科・大学病院他の医療機関との共同研究・共同開発を積極的に進めています.“情報工学技術で人の命を救うこと,安全・安心な長寿社会を実現すること”を目指したい人もぜひ長尾研へ来て下さい.

  • また,ベンチャー活動に力を入れています.当研究室では,これまでに100社を超える企業との共同研究や提携実績があり,常に10~20社と共同研究または共同研究のための準備をしています. また,平成17年度にJST(科学技術振興機構)様の大学発ベンチャー創出支援事業に長尾研の画像処理・認識自動化方式が研究シーズが採択され,平成17~19年度に研究開発費の支援を頂き,平成20年度に大学発ベンチャー 株式会社マシンインテリジェンス を起業しました.現在,総合研究棟2Fにあるインキュベーション施設に居室を借りて本格的に活動を開始しています. このため,ベンチャーあるいはベンチャー起業に興味がある学生の皆さんもぜひ長尾研においで下さい. 普通の研究室では経験することができない,活きた勉強をすることが出来ます. アイデア次第で一攫千金のチャンスがあるかも知れません.

  • 広範囲な研究領域を対象とする長尾研究室のこのような研究方針は,「知能に関する研究はただ1つのことだけを続けていればよいのではなく,広い視野と知的好奇心をもち,知能に関するさまざまな要素を並列的に検討することによって,それらの共進化・創発の効果を引き出すことこそが目標に至る早道である」 という長尾教授の研究理念に基づいています.


 近未来高度情報化社会では...

  • 社会の高度情報化に伴い,機械や計算機は今後益々複雑になり,高性能化されてゆきます. それにつれて,人間は本当に豊かになってゆけるのでしょうか? 下の絵に示すように,自宅,学校,職場,社会のあらゆる場所に機械・計算機がはびこり,それらを自由自在に使わなければならない時代になったとき,人は『それらの機械・計算機の操作方法を覚えなければ社会に取り残されてしまう』というストレスに常にさらされることになります. また,悪意のある人は他人の財産やプライバシーを盗もうとするでしょう. このような不安やストレスがいっぱいの『人間が機械に使われる』時代になってしまっては困ります. 特に我が国は高齢化が急速に進んでおり,このような問題は益々深刻になっています.

  • 機械や計算機は人を越える存在ではありません. それらは常に人の幸福のためにこそ存在すべきものです. 高度情報化が益々発展する21世紀こそ,『人を中心とした,人にとってやさしい工学技術』が求められています. 機械や計算機が『人にやさしい』ものになるためには何が必要でしょうか? それは,知能化技術です. 機械や計算機が,次の絵に示すように,現在よりももっと頭が良くなり,人のことをもっと理解することができるようになれば,人の負担を今よりもずっと軽くすることができます. 人は,機械や計算機に囲まれていても,余計な不安やストレスを感じることなく,その便利さだけを享受でき,豊かで幸福な生活を送ることができるようになります. そのようになって初めて,機械・ロボットが“道具”から人の“真のパートナー”へと変わることができるのです.


 今の機械・計算機の知能は...

  • さて,機械・計算機の知能化が重要なことはご理解いただけたことと思いますが,もし人間よりも頭が良くなってしまったらどうなるでしょうか? よくSFや映画にあるように,人が機械や計算機に支配されてしまうのでしょうか? その答は『No』です. なぜなら,今の機械・計算機は,一般の人達が考えているほど実際は知能が高くはないからです. 今のロボットの知能を示す例を示しましょう.
     下の絵の“学習過程:”にあるように,椅子を初めて見たロボットが,その寸法を測って,『椅子というものは,高さが○~△cmくらいのところに,平らな部分が~平方センチメートル以上あるものである』という知識を獲得したとしましょう. 次に,このロボットが,下の絵の“応用過程:”に示す2つの箱を重ねた上にノートを置いたものを見たときにどう判断するでしょう? このロボットは,自分のもっている知識に従って,『おお,これは高さも手頃だし,座れそうだし,椅子だな』と判断するでしょう. そして,この不安定な物体に座り,結局転んでしまっても,その理由がわからないという状況に陥るでしょう. これは高度で融通のきく学習が難しいことを示す一例でしかありませんが,現状の機械・ロボット・計算機は,この例からもわかるように知能はまだまだ低いのです.


 長尾研究室の目指すもの

  • 研究の最終目標は知能情報処理技術によって人々を幸せにすることです.このため,人を中心にしたアプローチが重要です. 上で述べたように,人が計算機・機械に合わせ,複雑な操作法を覚えたりしなければならない時代は終わりました. 21世紀こそ,人間を大切にし,人間を基本にした工学・科学技術の発展が望まれます. 人にとって不便であったり,冷たかったりするシステムはいずれ淘汰されるでしょう.

  • 長尾研究室では,人に優しい人工システムを作り出すことを目的とした研究を行っています. 人に優しい人工システムを作るためには,上で述べたように,知能化技術がキーになります. 知能化技術を発展させるためには,人と機械の知能に関連する広範囲な研究分野について研究する必要があります. このため,長尾研究室の研究方針は,従来の情報工学・電子工学分野にとどまらず,機械工学・数学・物理学・経営工学・経済学・教育学・心理学・医学・生物学などとも密接な関連があります. このため,長尾研究室では,これらの分野のセンスを持った学生を歓迎しています.

  • 長尾研究室では計算機を多用しますが,あくまでもアルゴリズムやシステムのチェックを行うための“道具”に過ぎません. 計算機がなければ生きていけないようないわゆる“計算機オタク”になる必要はありません. 長尾研究室での研究生活を通して,最初は計算機を充分に扱うことができない人でも,プログラミングや研究方法などについて教官や先輩がコツを親切に教えてくれますから,自然に計算機に精通することができます.

  • 長尾研究室の研究に興味を持った方は,「自分は専門分野が違うから...」と決めつけないで長尾教授に気軽にご相談下さい. 長尾研究室では,情報系・電子工学系・機械系・数学系・物理系・経営系・経済系・教育系・心理系・医学系・生物系などの様々な学科を卒業した学生達がコラボレーションすることで,単一の学科の学生だけでは実現することができない優れた研究を行っています. 進化計算法でも個体集団が局所的な解に収束してしまうことを避けるために,集団中の多様性を保持することが重要ですが,これは研究室,組織,社会などのあらゆる“集団”に適用できる法則であると長尾研は考えます.

  • 長尾研究室の目指すものは,一言で言えば,

    人の高度な知能を計算機・機械で実現する (人の“暗黙知”を機械の“形式知”に)

    あるいは,

    人を超える知能を計算機・機械で実現する (複雑データの解析能力などにおいての意)

    とまとめることができます.

  • なお,研究室に所属する学生の研究テーマは本人の希望に沿って決まります. 教官・研究室からテーマを押しつけたり,本人が望まない研究を行わせることはありません. 学生は,長尾研究室のカバーする広範囲な研究テーマの中から,自分が面白いと思うテーマを自由に選んで研究することができます. 人を中心とした研究を行うのと同じように,長尾研究室自身も“学生による学生を中心とした研究室”と言えます.


研究分野

  • 長尾研究室の将来目標は高度機械知能の実現と応用であることは“研究方針”の項で述べた通りです. “知能”に関連する研究分野は非常に広く,長尾研究室の研究分野も下図に示すように複数の研究分野から成り立っています. 以下,それぞれの研究分野について簡単に説明します.

    長尾研究室の研究分野

  • 画像・音声情報処理

    • 人間は1枚の写真からさまざまなことを認識することが出来ますし,雑踏の中から容易に知人をみつけることも出来ます. このような人間の高い画像処理・認識能力は,知能の顕著な現れであると考えられます. このため,長尾研究室では,ディジタルカメラ,CCDカメラ,距離センサ,イメージスキャナなどによって計算機に入力された画像の処理・解析・蓄積・伝送・認識・理解に関する研究を行っています. 現在,様々な画像処理・認識システムを設計・構築しています. また,画像処理を完全に自動的に行うことができる進化的画像処理(R)(“進化的画像処理”は横浜国立大学の登録商標です),進化的画像認識について研究しており,この技術をベースにした大学発ベンチャーを平成20年度初めに起業予定です. さらにカメラ付携帯電話などによって撮影された画像の処理・認識,画像をクエリとする画像検索システム,単眼セキュリティカメラによる人の動作の理解,横浜市立大学医学部などと共同での医用画像処理,ロボットの視覚による物体の認識と把持など,画像に関するあらゆる研究が対象となります. また,画像と同様に音声に関する情報処理につちえも研究しています. 最近の例では,人の音声の変換処理の自動構築,曲調を指定できる自動作曲などを行っています.

  • 視覚情報処理

    • 人間と機械は視覚情報処理機構の構造が異なります. 機械が計る物理的な数値と,実際に人間が“感じる”ものの間には,単純な1対1の関係ではない,複雑な相関関係があります. 例えば,黄色いバナナは,異なる照明光の下でも人間にとってはいつも「黄色い」バナナに見えますが,物理的な測色装置で計測すると,バナナの表面の反射光のスペクトルは明らかに異なるものになっており,「別の色」になっています. それでも人間はなぜバナナを「黄色い」と感じるのでしょうか? これは,その方が日常生活で暮らすために都合が良いからで,その機能は長い進化のプロセスで獲得された人の視覚特性であると考えられます. 人にやさしい人工システムを作るためには,例えばこのような人の知覚特性を充分理解し,それを機械・計算機で実現することが重要になります. このため,主として他大学の視覚心理学・認知心理学の専門家などと共同で,人間の視覚情報処理を工学的に実現するための研究を行っています.具体的には,照明に依らず(=色恒常性)に物体の色を安定して認識できるモデル,画像から陰影を除去することで立体認識を容易にする技術,色の記憶のモデルなどです.

  • 分散人工知能

    • 人は,目からの画像信号,耳からの音声信号,触覚からの信号などを常に情報処理していて,それらに基づいてそのときに適切と判断された行動,手で物を掴んだり,歩いて移動したり,声を出したりしています. このように,外界(外部環境)からの刺激(センサ入力)に基づいて,自律的に判断して行動するという能力は,知能の顕著な現れです. 一般に,人工知能では,実際の問題を計算機が扱い易いかたちに定式化し,それを解くことで現実的な解を見出します. そこでは,規則,知識の表現と獲得,学習,推論,類推,プラニングなどが重要になります. エキスパートシステムと呼ばれるシステムでは,専門家(エキスパート)のもつ知識を計算機に組み込むことで,専門家による判断と同レベルの高度な判断を機械にさせることが試みられました. しかしながら,従来のエキスパートシステムでは知識の自動獲得方法,知識の表現方法,高次推論方法,画像が関係する場合の取扱いなどが問題となり,これが従来の古典的人工知能の壁になっていました. 最近の知能情報処理では,これらの反省に基づいて,機械(エージェント)が自ら環境から学び,環境と相互作用しながら高度な知能を獲得してゆくエージェントベースト人工知能(分散人工知能)が主流となっています. 長尾研究室では,以前から分散人工知能について研究を行っています. エージェントをコントロールするための技術,強化学習の改良,進化計算法の利用,マルチエージェントシステムの研究などです. 分散人工知能の仕組みについて考察して,新たな実現法を検討するとともに,現実の問題に適用することがこの分野の目標です.

  • 神経回路網・並列分散処理

    • 人の知能はどこから生ずるのでしょうか? それが脳であることは明らかです. 脳は,実に精密かつ巧みに設計された器官であり,その複雑さ・発展可能性は驚異的なものがあります. 脳を構成する一つ一つの神経細胞は比較的単純な動作を行う素子であるとともに,脳内の信号の伝達速度はせいぜい msec オーダーであることが分かっています. それにもかかわらず,人間の脳は現在の,毎秒何億回も演算することができるスーパーコンピュータよりも多くの面において優れています. もちろん,単純な四則計算はコンピュータの方が優れていますが,物事を深く考える力,推論や類推をする能力,学習する能力,創造的な発想を行う力などは,現在のコンピュータは人間の脳に遠く及びません. 長尾研究室では,その脳の構造と機能に着目し,それに近いものを人工的に創り出すことを将来の目標とし,人工神経回路網及び並列分散処理の方式に関する研究を行っています. これまでに,任意の構造の人工神経回路網を進化的に自動生成する進化型ニューラルネットワークや,それをハードウェア(LSI)によって実現し易い形にすることなど,画期的な成果を残しています. ロボットや機械のための人工脳を創りだすだけでなく,超小型の人工脳で人間の脳機能を補助・代替することが将来目標です.

  • 進化計算法・最適化法

    • 人は,始めからこのように高い知能をもっていたわけではありません. 原始的で単純な生物から,長い年月を通して進化してきたものです. 始めは比較的単純なプロトタイプから始めて,それを徐々に発展させることで,最終的には非常に高度なものを目指す,この“進化”という考え方は,結果的には工学における“最適化”と類似のものと考えることが出来ます. 最適化のプロセスに“進化”の考え方を取り入れたものが,遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm;GA)や,遺伝的プログラミング(Genetic Programming;GP)に代表される進化計算法であり,現在,世界最強の最適化法と言われています. 長尾研究室では,以前からこの進化計算法を工学分野に有効に利用するための研究を行ってきています. また,それだけではなく,現在の進化計算法を超える新しい進化的最適化法を次々に開発してきています. 例えば,当研究室で開発した遺伝的オートマトンGAUGE(Genetic AUtomata GEneration)は,アルゴリズム(処理手順)の基となるオートマトンを進化的に生成するもので,これにより自動プログラミングを大いに発展させることができます. また,最近もGMA(Genetic Matrix Algorithm), GIN(Genetic Image Network), GRAPE(GRAph structured Program Evolution)など,従来の進化計算法を凌駕する強力な進化計算法を開発しています. 特にGRAPEは,学習データを与えるだけでその処理プログラムを自動構築するものであり,“プログラムを人手で作る時代の終焉?!”を感じさせてくれます. 将来的には世の中に存在する全ての知的な情報処理を,その形式を問わずに全て進化的に自動生成させるための方式を開発することが目標です.

  • 金融工学・進化経済学

    • 人は一人では生きてゆけません. 家族,グループ,集団そして社会と,人は他の人と助け合いながら生きています. 人の知能について論じるなら,集団としての知能(群知能),さらに人と人との関わり合い,人と集団,集団と集団との相互作用,およびそれにより引き起こされる現象について論じる必要があると考えられます. 長尾研究室では,人々の経済活動,グループ行動,集団としての複雑さを工学的に論じるための方法論の開発と応用について,以前から研究を続けています. 具体的には,カオス理論,神経回路網,進化計算法などを組み合わせて正確に株価などの経済時系列データの変動を予測する研究や,計算機内に仮想的な投資家からなる人工市場を構築して動作させることで,複雑系としての市場の挙動の解析や変動を予測する研究,企業間のマネーフローのシミュレーション,企業の構造解析と適正株価の計算,次年度売上げ予測,記事やweb上の情報が株価に与える影響の検討などです. また,集団における個々の人の心理に着目した研究も行っています. 最近では,複数種類の株式を運用し,“いつ,どの株を,何株,買う(売る)のか”を的確に指示することで実質年利率が数十%を超える非常に強力な投資戦略手法の開発も行なっています. 強力な手法を1つ開発することができれば,それでベンチャーを起業することも夢ではありません. 長尾研ならそれが可能です. 経済・金融・集団・心理などについて最先端の情報工学的手法で研究してみたい人はぜひこれらの研究に参加して下さい.

  • ロボティクス・創発システム

    • 長尾研究室では,ロボットの構造設計・行動制御・視覚情報処理など,将来,人のようなロボットを作るために必要な科学技術・ロボットの知能化技術についても以前から研究しています. シミュレーション研究ではサッカーリーグのRoboCupに出場した経験もあります(長尾教授が東工大在職時に指導した学生が2002年の日本リーグで優勝しました). 超小型ロボットを用いた研究では,多数のロボットが協調して行動するための学習や群知能に関して研究しています. ペットロボットや小型移動ロボットを用いた研究では,巡回監視する際に自己位置を同定する方法や,普段とは異なる状況(novelty)を自動検出する方法,3次元マップを効率良く生成する方法などについて研究しています. また,もう少し大きな中型ロボットでは,静止障害物や移動障害物を器用によけて目的地に早く到達するための行動を限られた学習環境で獲得するための研究や,屋外での監視,特に夜間に人を見つけるための自律警備目的の処理などについて研究しています. センサとしては,単眼CCDカメラ,ステレオカメラ,赤外線カメラ,赤外線測距カメラ,全周囲カメラ,マルチマイク,臭いセンサなど,さまざまなセンサを利用しています. さらに,ゴムチューブを人工筋肉とするロボットを試作し,それを高精度に制御するための研究や,伸縮型の人工筋肉を用いて近未来の柔らかなロボットを作るための研究も行なっています. 手術ロボット,非破壊検査ロボット,産業用ロボットや自動車など,長尾研究室では,今後もあらゆる“動く機械”の知能化について検討します.

  • マンマシンインタフェース

    • 今のコンピュータは使い易いでしょうか? そうは言えないと思います. 例えばお年寄りや体の不自由な方は,あの沢山あるスイッチ(キーボード)を使うのは大きな負担です. 長尾研究室で目標としている機械や計算機を知能化する最も大きな理由の一つが,『人と機械の間のコミュニケーションをもっと豊かにし,人にとって機械を扱いやすいものにする』ことです. これを,一般には『マンマシンインタフェースに関する研究』といいます. 長尾研究室では,機械・計算機を設計する側ではなく,常に利用する側に立って考えることに努めています. 優れたマンマシンインタフェースを実現するためには,人にとって使い易い機器とは何か?,人の考えていること,求めていることを計算機が理解するにはどうすれば良いか?,人の表情を機械が理解することができるか?,人のために機械・計算機が何をすることができるのか? について常に考え,それらの解決策を求める必要があります. この分野では,機械・計算機の評価に人が関わることが多いので,数学や論理学など,型にはまった理論では解決できない問題がほとんどであり,何よりもまず人について理解することが重要になります. その意味では認知心理学や感性情報処理などとも密接な関係があります. 最近の研究例では,マーカを用いない手振り・身振り認識,手話認識などがあり,今後も近未来のマンマシンインタフェースについて積極的に研究する予定です.手に何もつけず,指などで指し示すだけで操作できる近未来のTVについても研究しています.

  • 医工連携工学

    • 少子高齢化社会を迎えつつある我が国では,長寿健康社会を創ることが急務となっています. メタボリックシンドローム,高血圧症,高脂血症,糖尿病などの生活習慣病患者予備軍は全国で数千万人居ると言われています.これらの人達を病院に入院させることは,物理的にも,医療保険制度の観点からも不可能です.このため,多くの人達が長期間健康でいられるようなサポートが必要です. また,MRI・PET・CTなどの医用画像を撮影する装置も年々進歩を遂げており,多くの人達が利用できる環境が整いつつありますが,それらの画像を読影する医師の数は増えておらず,コンピュータによる診断支援・自動診断が必要となっています. 人の命を助けることは,我々工学者ではなく,医師や医学者の方々のお仕事ではありますが,工学者でなければできないこともあります.それは,工学技術で医師・医学者を支援するとともに,医学と工学のコラボレーションによって新たな医科学・医工連携を創生することです. 長尾研究室では以前から,横浜市立大学医学部・医学研究科の多くの先生方や,他の大学の先生方といっしょに医工連携研究を進めてきました.具体的には,細胞画像,顕微鏡画像,MRIやPET画像に対する解析・診断支援,皮膚病患者の痒みの定量化,眼科画像処理,24時間計測された血圧・心拍数などの生物データに対するデータマイニングなどです. また,医療系企業との共同研究も積極的に進めています. これらの研究は,今後益々必要になります.このため,当研究室では今後もこの分野に特に力を入れて研究を進めていきます. また,学内の医療ICTセンター(通称MICTセンター),環境情報医用画像研究グループなどにも積極的に協力していきます.“情報工学研究者”だからこそ助けられる人の命や,伸ばせる寿命があります. 研究を“単なる自己満足”で終わらせるのではなく,真に人の為になる研究をしてみませんか? 長尾研究室ならそれが出来ます.

  • 感性情報処理

    • マンマシンインタフェースのところでも述べましたが,今後は人間と機械・計算機のコミュニケーションをさらに豊かにする必要があります. そこで,人の“感性”を工学的に取り扱う感性工学に関連する研究も行っています. 例えば人が画像を見たときに感じる印象・感想と同じものを,機械・計算機が“感じる”ことができれば,機械・計算機を人にとってより身近なものにすることができる,と考えています. その際のセンサとしては,各種のカメラ,血圧計,心拍計,電流形,加速度センサ,などなどが考えられます. 長尾研では,これらのセンサから入力されるデータと,人の感性の因果関係を情報工学的に解析することで,機械に人の感性を理解させるための研究を行っています. 必要とあれば脳波計測なども行なっています. 現時点では,何かの対象に対して人間がどのように感じるかを心理物理実験を通して調べ,それと同様な応答ができるような機械・計算機を作るのがやっとですが,いつか,映画「ターミネーター2」のラストシーンのように,人が何故涙を流すのかを機械が理解することができれば素晴らしいと思いませんか?


研究テーマ

上の研究分野に含まれる研究テーマの例を,各分野5つずつ次に示します.なお,これらはあくまで例であり,全てではありません. また,研究の具体例については研究例の紹介をご覧下さい. (昨今の大学の知財確保の流れを受けて,研究例の紹介ページは現在ほとんど更新されていません. 悪しからずご了解下さい.もし最新の研究例をお知りになりたければ,ぜひ長尾研に見学にお越し下さい.)

  1. 画像・音声情報処理

    • 各種の画像処理・認識アルゴリズム・システムの開発.
    • 進化的画像処理(R)(画像処理の自動化)・進化的画像認識(画像分類の自動化)
    • 3次元物体認識およびロボットビジョン.
    • 個人識別関連研究・セキュリティカメラの知能化
    • 進化計算法を用いた自動作曲 ほか.

  2. 視覚情報処理

    • 色の恒常性の神経回路網によるモデル化.
    • 色のカテゴリカル知覚機能をもつコンピュータビジョン.
    • 色の記憶メカニズムの計算機による実現.
    • 主観輪郭線を生成するモデルに関する研究.
    • 画像中の陰影を除去する方式に関する研究 ほか.

  3. 分散人工知能

    • 自律エージェントの行動制御方式の開発.
    • マルチエージェントの行動制御・行動学習.
    • 強化学習・機械学習の改良と実問題への適用.
    • ゲーム理論に関する研究.
    • パターン認識・パターン分類に関する研究 ほか.

  4. 神経回路網・並列分散処理

    • 任意構造の神経回路網の進化的最適化と実機制御への応用.
    • リカレントネットワークによる時系列データ変動予測.
    • セル型神経回路網の進化的生成とLSI化.
    • 生物の神経系の構造・機能推定と脳機能補助への応用.
    • 成長型神経回路網(人工脳)のモデル ほか.

  5. 進化計算法・最適化法

    • 遺伝的アルゴリズム・遺伝的プログラミングの改良手法の開発.
    • 染色体のコーディング法・世代交代モデル・淘汰モデルの提案.
    • オートマトン・プログラムの進化的自動生成.
    • データ構造と数値の同時最適化を行なう進化計算法.
    • 従来の進化的計算法を超える世界最強の最適化法の開発 ほか.

  6. 金融工学・進化経済学

    • カオス理論,神経回路網,進化計算法などを用いた時系列変動予測.
    • 離散データの関数近似に関する研究.
    • マルチエージェントによる人工市場の構築と解析に関する研究.
    • 人工市場を用いた変動予測に関する研究.
    • 投資家の志向を尊重する強力な投資支援システム ほか.

  7. ロボティクス・創発システム

    • 多機能自律ロボット群の行動制御による群知能の実現.
    • ラバチュエータ(ゴム製人工筋肉)によるロボットの開発.
    • あらゆる種類のロボットの知能化に関する研究.
    • 自律巡回ロボットの行動最適化に関する研究.
    • 自律警備・ペットロボットによる異常検出に関する研究 ほか.

  8. マンマシンインタフェース

    • 文字・音声入力の新しい原理・機器の開発に関する研究.
    • 携帯電話・モバイルコンピュータの新しい入力方式.
    • 指文字・手話の自動認識に関する研究.
    • 人の顔・表情・手振り・身振りの自動認識に関する研究.
    • レンジファインダを利用した手振り認識に関する研究 ほか.

  9. 医工連携研究

    • 細胞/組織画像の分析処理.
    • PET,MRI, MRAなどの3次元医用画像の自動解析と診断支援への応用.
    • 非侵襲小型センサによる24時間計測生体データに対する解析と基底血圧推定.
    • 眼科画像の自動診断ソフトウェアの開発.
    • 痒み/咀嚼など定量化困難なものの定量化手法の開発 ほか.

  10. 感性情報処理

    • 画像からの感性情報の自動抽出に関する研究と応用.
    • 人の表情・感情理解に関する研究.
    • 機械・計算機による感情表現に関する研究.
    • 音声を介した人と機械のコミュニケーションに関する研究.
    • 計算機による自動作曲・曲評価に関する研究 ほか.


ご参考までに,最近の修士・学部卒研生の研究テーマを次に示します.

平成23年度修士論文テーマ

  • 新聞記事から求めた企業間の関係に基づく株価変動予測
  • 多数の時系列データと Classifier System を用いた株価変動予測
  • 探索対象に応じて探索特性を変更することができる進化計算法
  • 乗用移動台車を用いた動的な3次元環境中の人物の抽出
  • セル型神経回路網による超解像回路・ステレオ計測回路の自動構築
  • 超小型フレキシブルアクチュエータを用いた小型ロボットの構築
  • 進化的画像処理・認識を用いた水道原水中の微生物検出システム
  • 進化計算法を用いた物体の3次元姿勢推定に関する研究

平成23年度卒業論文テーマ

  • モノクロ階調画像の自動カラー化に関する研究
  • 進化的領域成長法による画像中の領域抽出に関する研究
  • ウェブデザインの進化的自動構築に関する研究
  • 機械学習に基づく人物の音声の変換処理の自動構築に関する研究
  • 参照曲に基づく自動作曲に関する研究

平成22年度修士論文テーマ

  • 動画像からの人物領域の正確な切り出しに関する研究
  • 次世代X線検査装置における立体形状の計測と認識に関する研究
  • 進化的条件判断ネットワークとその画像認識への応用
  • 進化計算法による動画像処理の自動構築に関する研究
  • 進化的アートによる写真からの絵画風画像の自動構築
  • 画像認識のための特徴量の自動最適化に関する研究

平成22年度卒業論文テーマ

  • 画像中の自動車領域の抽出に関する研究
  • ロボットの構造と機能の同時最適化に関する研究
  • マルチエージェントによる協調行動の自動獲得に関する研究
  • 視覚支援システムに関する研究
  • 監視カメラ映像処理に関する研究
  • 進化的条件判断ネットワークの基礎性能に関する研究(飛び級生による課題研究)

平成21年度修士論文テーマ

  • 進化型神経回路網のセル結合モデルに関する研究
  • 連続空間における強化学習の効率化に関する研究
  • 局所特徴量を用いた医用画像分類の研究
  • 領域抽出アルゴリズムの自動構築に関する研究
  • 動画像中の歩行者の検出とその応用
  • 改良ナイーブベイズモデルを用いた多クラス分類
  • 構造進化型神経回路網を用いたサッカーエージェントの行動制御

平成21年度卒業論文テーマ

  • 人工市場 U-Mart における市場制度の改良に関する研究
  • 複数テクニカル分析指標を用いた外国為替取引における売買タイミング予測
  • 波形テンプレートに基づく複数銘柄情報を用いた株価変動予測
  • 三次元姿勢推定のための進化計算法の性能向上に関する研究
  • グラフ構造状アルゴリズムの自動生成手法を用いたサッカーエージェントの行動最適化
  • ステレオカメラとレーザレンジファインダを用いた三次元環境復元(飛び級生による課題研究)

平成20年度修士論文テーマ

  • 特徴量の自動生成による画像認識処理に関する研究
  • 探索空間の特徴を利用した効果的な探索法に関する研究
  • 異常状態・違和感の検出を行う機構とその応用に関する研究
  • 複数の株価間の相関関係を考慮した投資戦略に関する研究
  • 料理画像の認識に関する研究
  • 空間中の3次元物体の検出と姿勢推定に関する研究

平成20年度卒業論文テーマ

  • プログラム自動構築法における交叉・突然変異の解析
  • 囲碁の指し手の学習に関する研究
  • 遺伝的回路自動構成による画像分類に関する研究
  • 進化的絵画自動生成法に関する研究
  • 複数の3次元物体の姿勢同時推定に関する研究
  • 水道水の水質自動検査に関する研究(飛び級生による課題研究)

平成19年度修士論文テーマ

  • SOM-SVMによるSVMの高速度化に関する研究
  • 木構造型画像分類器に関する研究
  • 重畳を考慮した移動物体追跡に関する研究
  • 記事情報の株価変動に与える影響に関する研究
  • マルチエージェントを用いた組織論の解析に関する研究
  • TV操作のための新しいユーザインタフェースに関する研究
  • 特徴空間の変換によるパターン分類の精度向上に関する研究

平成19年度卒業論文テーマ

  • 人物移動解析における重畳した人物の分離に関する研究
  • 部分空間を用いた3次元物体の認識に関する研究
  • 料理画像の解析に関する研究
  • カラー画像処理の自動構築に関する研究
  • 絵画の自動解析に関する研究
  • 医用画像処理に関する研究(外部指導学生による卒業研究)
  • 画像検索に関する研究(飛び級生による課題研究)

平成18年度修士論文テーマ

  • GPU(Graphic Processing Unit)を用いた超高速進化的画像処理
  • PSO(Particle Swarm Optimization)を用いた木構造の最適化に関する研究
  • 売買タイミングと売買株数を的確に指示する投資戦略
  • MRA画像の解析に基づく脳動脈瘤自動検出に関する研究
  • ネットワーク構造を最適化する進化的計算法GRAPE
  • 木構造状画像処理の追加学習に関する研究

平成18年度卒業論文テーマ

  • 画像からの特定領域の自動抽出に関する研究
  • 予測に基づく経験強化学習法とその障害物回避問題への適用
  • 構造変化型ニューラルネットワークによる株価予測に関する研究
  • 自律移動ロボットの自己位置推定に関する研究
  • 自律巡回ロボットによるノベルティの自動検出に関する研究(早期卒業生による卒業研究)
  • 医用画像解析に関する研究(飛び級生による課題研究)

平成17年度修士論文テーマ

  • 大画面描画装置を用いた手書き文字・図形認識に関する研究
  • 脳波計測を用いた投資行動の心理的解析に関する研究
  • ステレオカメラを用いた自律移動ロボットの行動制御に関する研究
  • 画像からの陰影の抽出に関する研究
  • ネットオークション市場の解析に関する研究
  • PCクラスタを用いた高速画像処理に関する研究
  • 画像認識装置の自動構築に関する研究
  • ニューロン内顆粒物体の移動解析に関する研究

平成17年度卒業論文テーマ

  • 疵画像分類システムの最適化に関する研究
  • 単眼カメラを用いた移動ステレオによる距離計測に関する研究
  • 企業価値推定モデルの時系列解析に関する研究
  • 24時間生体データの解析に関する研究
  • 脳波解析に基づく集中度の簡易測定に関する研究

平成16年度修士論文テーマ

  • 心理的要因を考慮した人工市場の構築に関する研究
  • 色の記憶に関する研究
  • 3次元画像処理の自動構築に関する研究
  • 数値と構造の同時最適化のための進化的計算法
  • 色恒常性をもったカテゴリカル色知覚に関する研究
  • 動画像処理の自動構築に関する研究
  • 単眼カメラによる人物の動作認識に関する研究

平成16年度卒業論文テーマ

  • 進化型ニューラルネットワークによる連続値環境下でのエージェントの行動制御
  • 色情報を用いた人物領域の抽出
  • 細胞の特徴を考慮した領域成長法に関する研究(飛び級生による課題研究)
  • 全周囲カメラと複数のマイクロホンを用いたTV会議中継システム
  • コンテンツにおける笑いに関する研究
  • 画像処理自動構築の並列実行に関する研究

平成15年度修士論文テーマ

  • セルオートマトンモデルを用いたタンパク質構造の予測
  • 連続空間上でのAGPA(適応型GP(遺伝的プログラミング)オートマトン)によるエージェントの行動制御
  • 画像の局所的構造と大局的構造を利用した画像変換
  • FCN(Flexibly Connected Neural Network)による自律エージェントの行動規則の自動獲得
  • リカレントニューラルネットワークを用いた時系列信号の変動予測
  • 人工筋肉アクチュエータを用いた仮想ロボットの提案
  • 対話型GA とマルチエージェントによる創発システム

平成15年度卒業論文テーマ

  • 計算機利用者の生理情報を用いた精神状態の推定
  • 領域の特徴と配置に着目した画像からの人物抽出
  • 運転者の前方視界の変化に伴う眼球運動に関する研究
  • 二つのマイクロホンを用いた音源位置推定
  • 移動ロボットによる移動・静止障害物回避行動の生成
  • ベクトル量子化を用いた画像分類に関する研究
  • 観察者の視点移動に対応する3次元物体の表示
  • GPによって生成された木構造画像処理フィルタの解析(飛び級生による課題研究)

おわりに: 強い精神力を持ちましょう

研究室に所属しての研究活動は,学部3年生までのような『ただ,教室に行って先生が話すことを一方的に聞いていれば良い』という授業スタイルの勉強とは異なり,『自分で調べて,自分で考えて,自分で動いて,自分で解決する』という能力が求められます. これは自由で良い反面,大変ストレスを伴う作業でもあります. そもそも,研究では“世界で初めての提案をする”ことや“何か新しいものを創り出す”ことが求められます. 何か新しいものを創造するという点では芸術活動に似ているかも知れません.

このため悩みを感じることも多いと思いますが,そんなことに負けてはいけません. あなたは一人ぼっちではありません.同僚・先輩・教員は皆あなたの心強い味方です. 特に教員は研究のプロですから必ず解決策を持っています. 悩みを打ち明けて相談すれば,必ず活路が見出せます. 結果的に世界一の成果が出せなくても気にする必要はありません. 何か1つでも光るものがあればそれで良いのです. “研究なんて大したものではありません”. 明るく,前向きに考えましょう. 研究を通して,どんな困難にも負けない強い心(長尾教授はこれを“メタル魂”と呼んでいます)を身に付けることが出来たとしたら,それはどんなに素晴らしい研究成果よりも大きな成果だと思いませんか?


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